さて、前回第13回目は、安価な航空運賃がどのように供給されたのか。そして、その結果として海外渡航者が(言い方はよくないですが、富裕層ではない、海外を目指すお金のない若者を中心に)増えたのか、というようなことを取り上げました。
と言っても、LCCのセールで、数千円で海外に行けてしまう今の時代とは違います。やっぱり高いものは高い。その中で、どんな風に海外を目指す人が増えたのか、ということを今回のテーマにしたいと思います。
現代の海外出国者数は
まずは今の状況から確認していきましょう。
日本政府観光局が、毎年の訪日外国人と日本人出国者の延べ数を統計としてまとめて発表しているものに頼ります。
それによると、2019年、日本人が海外に旅立った数は20,080,699人。初めて2千万人を突破しました。もちろん、仕事で毎年同じ国に何度も通う人もいますし、リタイアして海外旅行が趣味だという人もいますから、実際の人数ではなく延べ数である点に注意は必要です。ただ、ざっと日本人の6人にひとりですよ。まぁまぁ多くないですか。
海外渡航者数増減の要因
業務渡航か観光旅行かは、統計からはわかりません。リーマンショックにより世界的に景気が減退した2008年前後は前年比を下げているところから、仕事で旅に出る人が多いのではないかという感じもありますし、一方で、アメリカ同時多発テロの2011年からしばらく置いて、2013年になって出国者数が減るなど、社会情勢との関係性がややわかりにくい面もあります。
とは言え、観光需要の多くは、そしてその中のまた多くはお金がなくてエコノミークラスを選択するでしょう。エコノミークラスは特に座席を埋めないと収支が成り立たない空間ですから、厳しい時代には安い期間限定運賃が多数設定されていたであろうこと。そして、安価に供給することで、新たな海外ツアーの顧客が生まれたであろうことは、想像できるところです。
その頃の運賃額の推移がどうだったかという話は別にして、1964年の海外渡航自由化以降、日本人出国者数がどう変わってきたのかを、表にまとめます。
1964年 | 海外渡航自由化 | 127,749人 |
1970年 | 大阪万博開催 | 663,467人 |
1972年 | 札幌五輪(冬季)開催 | 1,392,045人 |
1980年 | 株式会社インターナショナルツアーズ (HISの前身)創業 | 3,909,333人 |
1984年 | OFC創業 | 4,658,833人 |
1992年 | ヨーロッパ行PEX運賃導入 | 11,790,699人 |
1997年 | 拓銀・山一證券経営破綻 | 16,802,750人 |
1964年の海外渡航自由化から、とりあえず2000年の手前、1997年の北海道拓殖銀行と山一証券の経営破綻による景気減退の直前までを並べてみました。
各年の大きな事件を書いていますが、経済的な問題は、翌年に影響が出ることが多いです。もしよろしければ、日本政府観光局の統計(https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/marketingdata_outbound.pdf)をご覧ください。
この連載では、運賃の変遷と、その要因について述べてきましたが、1970年にデビューしたボーイング747型機、いわゆるジャンボジェットが供給座席数を一気に増加させ、「安く売ってとにかく埋める」方針に各航空会社が傾いていったことは、何度か触れた通り。
ちなみに、過去、世界で最もたくさんB747型機を発注したのは日本航空で、その数は100機を超えます(余談ながら、2階建ての大型ジェット旅客機という観点で言えば、アラブ首長国連邦のエミレーツ航空は、エアバス社のA380をそれ以上の数発注しており、時代は中東が主役に変わったんだな、という気がします。もっとも、エミレーツ航空もいろいろあって、全機が同時に世界の空を飛んでいるわけではありませんが)。
何が言いたいのかと言うと、1970年代から80年代にかけて、日本発着便はどんどん機材が大型化し、結果として供給座席数も大幅増加。それを埋めるために航空券が安価に供給され、海外渡航者数も増えていった。その歴史が、出国者数を並べた表から推測できる、ということです。
なぜ海外渡航者が急激に増えたのか
こうやって見ると、日本から海外を目指す人数は、渡航自由化以降、急激に増えていることがよくわかります。日本で大きな国際的イベントが開催されたことも大きいでしょう。
これに比べると、最近の伸び率はとても低いように感じます。ただ、時代の違いはありますが、何よりも「海外に行きたくても、高くてとても手が届かなかった」層が、「頑張れば海の向こうに旅立てる」となっただけでも、各方面に大きな影響が出たであろうことは想像できます。
今とは違う、20世紀の海外渡航者の推移を、今回は見てきました。次回は為替相場との関係について、少し分析していきたいと思います。なかなか小難しくて、読むのが大変なところではありますが、どうぞお付き合いください。
この記事を書いた人:
関本(編集長)