【第25号】4. 日本発運賃の歴史と変遷(その17)日本の航空会社と海外就航

 前回は、日本航空の路線拡大について触れました。今回は、それ以外の日本の航空会社について見ていきます。

 

前回までの記事はこちら

 

 

日本の航空会社

 今でこそLCCを含め、数多くの航空会社が国際線を運航している状況ですが、日本航空が戦後最初に国際線を開設してからしばらくの間は、当時の運輸省の意向もあり、長らく日本航空だけが日本代表として海外に飛んでいるような状況でした。

 

 そんな中、2番目に国際定期路線に就航したのは全日本空輸ではありませんでした。IATAコード「KZ」と言うと聞き慣れないですね。その名は「日本貨物航空」、国際貨物専門の会社です。

 1985年5月に最初の定期便がサンフランシスコ/ニューヨークに向けて離陸。当時は全日本空輸と海運大手数社が共同で立ち上げ、ANAグループと言える存在でした(2005年に日本郵船が持ち株比率を50%以上にしたことで、グループから外れました。ただし、その後ANAとの業務提携により、関係を深めています)。

 このおかげで、日米間の国際貨物輸送量は伸び、日本の航空会社が運ぶ割合も高くなったような資料を見たことがありますが、旅客には関係ありませんね。

 

 海外旅行者の目線で2番目に登場した日本の航空会社こそ、全日本空輸。1986年3月にまずグアム線、次いでロサンゼルスとワシントンDCへの路線も、同じ年に就航しています。

 

 

ANA就航当時の運賃は?

 全日本空輸がグアムに就航し、日本航空と競合関係になったのは、言い換えれば、グアムにはそれだけの需要があることが確認されたから、と言えるでしょう。需要が全くないところで競わせても仕方ないですからね。

 ただし、当時はIATA主導の運賃体系が主で、航空会社独自の運賃設定はあまりなく、日本航空からすれば、顧客が大量に流れていった、というようなこともなかったのではないかと思います。

 

 さて、1896年10月版『OFCタリフ 日本発特別運賃』を開いてみましょう。

 ミクロネシア方面で最初に出てくるのは団体IT運賃。10名以上で利用できるそうです。どんなものか見ていきます。

運賃種別団体IT
目的地グアム
出発地東京
最低販売価格団体IT運賃+1泊あたり8,000円
必要旅行日数2日発・開始
最長旅行期間14日発・開始

 こんな規則だそうで、運賃額は最も安い「ベーシックⅠ」の時期で往復71,000円。

 たとえば現地3泊すると24,000円を加えた95,000円か、それを上回る値段で販売しなければなりません。

 

 また、家族旅行が多いであろう土地柄、「ファミリー運賃」なんてものも出ています。

運賃種別ファミリー(家族)運賃
目的地グアム
出発地東京
必要旅行日数制限なし
最長旅行期間21日発・開始

 どうでしょう、団体ITよりもいくらか条件がゆるいですかね。

 この運賃、額もなかなか凝った設定になっていました。

ピークショルダーベーシック
家長としての夫または妻110,00090,00080,000
同伴する妻又は夫、12歳以上の子供、父、母、義父、義母90,00070,00060,000
同伴する12歳未満の子供70,00050,00040,000

 

 団体IT運賃には小幼児割引が適用されますので、家族構成によってはファミリー運賃よりも予約しやすかったかもしれません。ただ、こんな運賃があったんだ、という参考に。

 しかし、今どき「家長」なんて言葉使いますかね。 

 

 

そう言えば、あんな会社も。

 既に皆さんご記憶から薄れてしまっているかもしれませんが、後に日本航空と経営統合し、現在のJALグループの一角を形成する基礎となった日本エアシステムも、国際線を運航していました。

 その国際線進出は、主要各社の中では最も遅く、最初の定期便就航は1988年。その数年前からチャーター便は飛んでいまして、80年代半ばから後半にかけては、政策的な事情もあり、日本からの国際線運航便数がかなり増えた時期でした。

 

 

 さて、今回ご紹介した1986年の運賃は、いずれも各社共通のもの。

 IATA主導の運賃制度から離れるきっかけとなる、航空会社ごと独自のいわゆるキャリア運賃がOFCタリフシリーズの「特別運賃」に登場するのは、1992年10月版が最初。この年、「ゾーンPEX」運賃がスタートし、それを受けたものです。

 ゾーンと言うのはつまり、IATA運賃をベースに、一定の範囲(=ゾーン)内で割り引いて運賃設定していいということ。それより前は、79年に始まったAPEX(AはAdvanceの意味で、要するに早めに購入期限が設定されている)はありましたが、航空会社ごとに異なる公示運賃は存在しなかったのです。

 

 というわけで、次回は1992年の航空会社ごとの運賃を見ていきます。

 かなり懐かしい名前が登場しますよ。どうぞお楽しみに。

 

 

この記事を書いた人:

関本(編集長)

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