今回は予告通り、全日本空輸の1990年代の運賃表を見ていきます。1993年4月版と99年4月版を比べつつ、どんな風にキャリア運賃が複雑になっていったのかを垣間見ることができるでしょう。
1993年の運賃表
前々回、JALの運賃表は1992年と94年のものからご紹介しました。ANAは間を取って1993年です。
まずはTC1。1991年3月に東京=ニューヨーク路線を開設し、国際線拡大に進んでいた初期の頃ということなのか、まだ設定都市は多くありません。日本人の誰もが憧れるハワイは別として、本土とカナダ、メキシコの最低限の都市を抑えている感じでしょうか。
シーズナリティも3段階にしか分かれておらず、比較的単純な構成に思えます。
この運賃表の下段、規則欄を見ると、有効期間「50日発・開始」は、今ではあまり見かけない長さという印象もあり(最近は1年に揃える会社も少なくありません)。
発券が予約完了後24時間以内という縛りは少々きついですが、復路の変更が出発前は10,000円でできるというのは、比較的優しいかな、と思います。
ちょっと不思議だったのは、「取り消し・払い戻し」の項目で「ツーリスト運賃の値上げの場合の取り消し」は手数料を収受せず、全額払い戻すという箇所。発券済みでも値上げによる追加請求が来ることがある、という意味なんでしょうか。この手の記述、最近の規則では見ない気がします。
この事態に遭遇して払い戻し手続きをしたことがあるという方がもしいらっしゃれば、ぜひ情報をお寄せください。
続いてTC2の規則表を見てみましょう。
潔い設定ですね。主要都市は一通り載っているかと思いきや、ドイツは選外など、基準がよくわかりません。ちなみに、東京=フランクフルト路線の開設は1993年2月のことでした。
規則はTC1と違いますが、発券が予約後24時間以内なのは同じ。
参加航空会社にOA(オリンピック航空)、SN(サベナ・ベルギー航空)、SR(スイス航空)などが並んでいるのに、懐かしさを覚えます。
1999年の運賃表
90年代も終わる1999年4月版を見てみましょう。この頃には、JALと同様、事前購入型割引運賃が充実してきて、キャリア運賃も多様化した印象です。
TC1行きの運賃で取り得る指定経路の一覧です。この頃は「G・E・T運賃」っていう名前だったんですね。
安い運賃でマイアミ行くのに、ニューヨーク経由はダメなのか、とか細かいところばかり注目していましたが、それ以前に安い28日前購入だと、シアトル線とバンクーバー線がそもそも使えないんですね。
TC1はそこそこに、TC2を見てみます。ロンドンとそれ以外では根本的に運賃を分けています。
ロンドン以外の方、基本運賃で行ける「注A」の都市に、ここもいいのか、と意外に感じる地方都市がけっこう混じっていて、おもしろいですね。
この頃のOFCタリフの特徴として、「適用期間・運賃」の項目に、日本発の直行便運航区間が掲載されています。これによると、東京からはフランクフルト、ロンドン、パリ、モスクワ、ウィーン。大阪からはローマにも飛んでいて、路線網が拡大しているのがわかります。
予約から発券までの猶予が72時間になっているのは、93年よりも利用者にとっては改善。
ロンドン直行便の運賃表1とその他のⅡは結合できないことになっていますが、何か特別な意味があったのでしょうか。
変わったところでは、中東行きの設定がありました。しかし、今の中東のイメージと違って、ドバイやドーハ行きではありません。カイロ一択です。
「目的地」の項目を見ると、GIは「TS」となっていて、シベリア上空を飛んでいくもの。要するに、一旦ヨーロッパのどこかに出て、そこで飛行機を乗り継いでカイロまで南下するという、なかなかしんどい経路の運賃なのでした。これ、売れたのかなぁ。
最後に、キャリア運賃のページの冒頭に記載されている、一般的な注意事項を取り上げておきましょう。
一番下の「ゾーン上限・下限について」を見ると、当時のゾーンPEXはIATA PEXと同額から30%までの幅の中で運用されていたことが、よくわかります。こういう部分でも、運賃の歴史を感じることができますね。
それでは、また次回。
この記事を書いた人:
関本(編集長)