【第37号】2. 日本発運賃の歴史と変遷(その29)燃油サーチャージの歴史と変動 

 前回、物価変動を考慮すると、航空運賃はずいぶん下がった、という歴史を見てきましたが、今の時代、運賃額を支払うだけじゃ済まないですよね。

 燃油サーチャージ、あれ下手すると運賃と同じくらいの値段になってしまいます(間もなく8月発券分から)。運賃の話をしていると見えにくい燃油サーチャージとは、どんなものなのか、というのが今回のテーマです。

 

前回までの記事はこちら

 

 

燃油サーチャージの登場

 燃油サーチャージはいつから存在していたのか、気軽にネットを調べたら、いきなりOFCの過去のニュースレターが出てきました。

 

 

 うーん、なるほど、勉強になりますね。

 燃油サーチャージというのは、

・湾岸戦争(1990-91)頃の不安定な中東情勢を背景に

・原油価格の高騰が航空会社の経営を直撃し

・困った航空会社がIATAに申請して1997年に導入が認められ

・2001年から実際に導入された

 仕組みなんだそうです。

 2001年にまず貨物から始まり、旅客の世界では2005年から適用開始。2005年と言うと、中部国際空港(セントレア)が開港した年でして、意外と最近だな、という感じもします。

 

 

 

燃油サーチャージの推移

 では、燃油サーチャージが登場した当時の燃料価格はどのくらいだったのか、と思って調べ始めたのですが、意外にまとまったものがありません。OFC社内資料(燃油サーチャージもまた国土交通省への申請が必要なものですから、恐らくは計算書類などが残っているはず)を漁るところまで行きついておらず、かわりにこんなものを見つけました。

 

 

 中ほどに「Jet fuel price developments – longer term perspective」という節がありまして、2015年7月から7年間のジェット燃料の価格推移が示されています。

 

 ちなみに本邦の航空会社では、アジア圏で一般的な指標であるシンガポールケロシン(米ドル建て)に、日本円の為替レートを掛けて、日本円建てのケロシン価格テーブルを用意し、燃油サーチャージ額を決定しています。

 

航空燃油(シンガポールケロシン)の各日のスポット価格の2カ月平均に、同じ2カ月の為替レート平均で円換算した価格によって適用額を確定し、2カ月間固定いたします。

 

※ 日本航空のウェブサイトより

 

 ここで何が起きるかと言うと、「燃料価格が全く変動していなくても、為替相場が動いていると、燃油サーチャージが変わる可能性がある」ということです。

 シンガポールケロシンの相場が高騰するのと同時に、円安が進行する、その二重苦で燃油サーチャージが恐ろしく高くなる、という仕組みなわけですね。なお、ジョイントビジネスなどで外国航空会社と完全に一体で運賃を運用する兼ね合いか、日本の航空会社に限らず、外国社でも日本円建てのテーブルを適用する例はありますので、念のため。まぁ、厳しいですね、旅行者としては。

 

 とりあえず、この表を見ると、2021年の後半から、青い線のジェット燃料価格が恐ろしく上がっているのが、よくわかります。

 この表よりも左側の、情報が存在しないところで、2008年にはシンガポールケロシンが1バレル180ドルを超える高値の時期がありました。ただ、銀行ウェブサイトなどから集めた情報では、この年の米ドル為替相場は平均で103円台だったので、今この瞬間、燃料価格が同レベルだったとして、単純に日本円建てでは3割高くなります。

 

 

 

どうなると燃油サーチャージは廃止されるのか

 先ほどのJALウェブサイトからの引用には、続きがあります。

 

2カ月間の平均燃油価格が1バレル当たり6,000円を下回った場合は、「燃油特別付加運賃」を適用いたしません。

 

 旅客の燃油サーチャージは2か月ごとに見直されますが、計算対象となる期間の燃料価格が6,000円より安ければ、サーチャージ廃止だそうです。

 仮に1ドル130円で計算して、1バレル46ドルまでなら燃油0円。ここでまたIATAの表に戻ります。1バレルが50ドルを切っていたのはいつかな、と。

  そうですね、ほとんどありませんね。まだ全体的な相場がそこまで高くなっていなかった2015年から16年にかけての一時期と、原油価格が大幅下落した2020年(コロナ禍で何もかもが止まったあの頃です。燃油はゼロだけど、海外旅行には出られませんでした)だけ。

 

 どうも二十一世紀に生きる我々は、燃油サーチャージとしばらく付き合っていかなければいけないようです。

 

 

 

この先の燃料事情

 ただ、航空業界はいつまでも原油に由来する燃料で飛行機を飛ばすわけではありません。

 近年、新聞やニュースでも目にするようになった持続可能な航空燃料。「Sustainable Aviation Fuel」を略してSAFと言ったりもしますが、カーボンニュートラルを目指して研究・開発が進められています。

 既に、こういった燃料を使ったフライトが実現しており、そう遠くない将来、化石燃料の相場に左右される時代が終わりを告げるかもしれません(ただし、再生可能燃料はまだ高いため、かえってサーチャージが高くつく?)。

 

 今回は、運賃以外に航空会社の収入を支える「隠れ運賃」的存在、「燃油サーチャージ」について、改めて考えてみました。 

 それでは、また次回。

 

この記事を書いた人:

関本(編集長)

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