【第40号】1. 日本発運賃の歴史と変遷(その32)航空運賃の推移を統計的に分析する

 最近、ニュースを見ると、毎日のように「物価が上がっている」という話が取り上げられています。身近なところでは、たしかに日々の生活への支出が増えたなぁ、という印象もありますが、さて、国際航空運賃は何かしらの影響を受けているのでしょうか。

 少し遡って、2000年からの統計データを眺めつつ、運賃額がどう変わっていったかを見てみたいと思います。

 

前回までの記事はこちら

 

 

日本銀行の価格指数

 今回は、日本銀行がウェブサイト上で公開している、月次の「企業向けサービス価格指数」から「国際航空運輸」の物価の数値を参照しました。

 これ、以前に日本銀行の方と話したことがあるのですが、毎月の日本発航空運賃の変動を、きちんと追っているのだそうです(具体的にどの運賃なのか、対象をどう決めているのかなどは、教えてもらえませんでした)。

 様々な路線が飛んでいて、運賃も多様ですが、一般論としてどんな傾向にあるのか捉えるには、わかりやすいデータではないかと思います。

 

 さて、2000年から直近(本稿執筆時点で2022年8月が最新)まで、便宜的に2019年4月の指数を100として並べてみましょう。

※ この時期設定に深い意味はなく、読者の方がすぐに思い出せる程度に最近で、新型コロナウイルスによる渡航制限の影響を受けていない頃、という基準で決めました。

 

 

 

2000年代前半からの指数の変動

 検索範囲を2000年からで指定しましたので、一番古いデータは2000年1月。冬場は航空運賃が低め傾向にありますね。以前に見た、初期のキャリア運賃では、しばしばヨーロッパ行きなどで真冬だけ割安な運賃設定になっていました。

 

 というわけで2000年4月を見てみると、2019年対比で62.6だったそう。意外に安いですね。

 ジェットスターの日本就航が2007年で、2000年と言うとLCCとは縁のなかった時代ですから、その後の19年でずいぶん上がったんだな、という印象を持ちます。もしかすると、要因として、上位クラスの運賃が上がったのが影響しているとか、こちらでは窺い知ることのできない統計データならではの理由があるのかもしれませんが。

 

 さて、時間の経過とともに、航空運賃は少しずつ上がっていきます。物価も上がりますし、IATA主導の世界では航空運賃が下がっていく圧力はあまりかかりませんから、当然の流れ。

 その中で、対2019年4月の指数が初めて90を超えるのは、2008年4月。商売の常として、供給が多くなり過ぎると価格は下落し、逆に供給が絞られて需要が大きくなっていくと、価格は順調に高くなっていきます。この頃に何があったかと言うと、原油価格が高騰しまして、燃油サーチャージがだいぶ上がりました。更に追い打ちをかけるようにリーマンショックが発生し、夏からは世界的な景気後退期に入ります。

 こうなると、みんな旅行に行かないですから、航空会社は供給を減らして「高くても行かなきゃいけない人だけ乗ってください」という方向に転換します(実際には、空港のスロットを手放せないので、営業上の理由で気軽に運休することはできないのですが、それはそれとして)。2008年と翌2009年は、日本人出国者数が連続で前年割れしていることからも、マーケットの縮小が読み解けます。

 この時期、2008年後半(7~12月)はずっと指数が90台後半になっており、相場がかなり上がったことがわかりますね。

 

 その後、景気が回復してきても航空運賃は下落せず、2008年くらいをベースに少しずつ上がっていきます。初めて2019年4月の指数を超えるのは2010年8月(102.4)ですが、これは8月の特殊事情でしょう。

 

 ところが、2015年になって突然、指数が90を割ります。2015年は、初めて日本人出国者数を訪日外国人旅行者数が上回った年。日本に行ってみたい外国人を大量に運ぶため、航空座席の供給がかなり増えたのでしょう。出入国統計を見ると、信じられないような外国人入国者の伸び方をしています。

 その勢いで、どうしても生じてしまう空席を埋めるために、安価な航空券が増えて、相場が押し下げられたのではないか、という気がします。夏休み時期だけ指数が突出し、あとの時期は終始90前後という時代が数年続きますので、概ね供給過多だったと言えるのではないでしょうか。

 

 

 

そして2020年

 今回の基準となる2019年4月を過ぎまして、概ね95~105の範囲に収まりながら指数が推移すると思いきや、新型コロナウイルスが一気に広まった2020年3月から、一時的に低下します(3月93.7、4月95.0、5月93.8、6月90.4)。この理由はよくわかりませんが、先行きが見えない状況で、各社対応が遅れたため、安い運賃の設定が残っていたのかな、という予想をしています。その後は座席供給がなく(ほとんど便も飛んでいませんでしたし)、1便当たりの搭乗人数にも制限をかけられたことから、ほとんど普通運賃じゃないと乗れない状態になって、価格は戻ってきています。統計上は、たとえばエコノミークラスでYとかBじゃなくて、もうちょっと下のブッキングクラスも設定があれば、それを予約できるかどうかに関わらず、商品としては存在するものという扱いになり、そこまで指数は上昇しないのでしょうが。

 

 2022年に入り、ぼちぼち海外旅行してもいいかな、という雰囲気になりつつある状況で、この燃油高です。指数は驚異的な上がり方をしています。4月119.6、5月122.4、6月134.4、7月138.0、8月144.7、だと。要するに、コロナ直前の1.5倍のお金を払わないと、国際線に乗れないということですね。

 夏場補正はあるにせよ、まだ今年の夏休みはそこまでみんな海外に行っていなかったはずですから、「高くても行くんだ」という人がそれなりに存在して、航空会社はそこ向けに安くない運賃を並べてきた結果ということかと考えています。

 

 夏休みを越えて、各社が復便していくうちに、指数が120くらいまで下がるのかどうか、今しばらく注視してみたいと思います。

 

 

 今回は、タリフではなく統計で見る運賃額の推移についてのお話でした。

 それでは、また次回。

 

この記事を書いた人:

関本(編集長)

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