【第46号】2. 運賃規則の雑学知識(その10)

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【第36号】4. 運賃規則の雑学知識(その1)
【第37号】4. 運賃規則の雑学知識(その2)
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【第43号】2. 運賃規則の雑学知識(その7)
【第44号】3. 運賃規則の雑学知識(その8)
【第45号】2. 運賃規則の雑学知識(その9)

 

 このコラムは空港について取り上げることが多いのですが、「行くべき空港を間違えた」という話を時折耳にするので、多くの人にはきっと「空港がたくさんある都市も存在する」ということが意識されていないんだろうな、と思ったから。もっと空港に興味を持ってもらえたら、そういう間違いも減るんじゃないかな、と考えています。

 実際、羽田と成田を間違えたような例を、自分の知り合いの範囲でそんなに頻繁に見かけるわけではありませんが、航空会社のウェブサイトで予約しようとすると「乗り継ぎの空港が違います」って赤字で注意書きが出てきたりして、そうでもしないと見落としてしまいそうですよね。

 

 さて、航空券を買う際に参照する運賃規則の世界では、原則として同じ都市の空港は互換性のあるものとして扱われます。これをマルチエアポートと言います、というのは、皆さんよくご存知のことでしょう。

 便による空席設定の違いや、Qサーチャージの差などで、運賃額まで全く同じとはいかないまでも、変更する際などにはわりと融通が利く仕組みになっています。

 

 しかし、世の中には、「近隣の空港です」という顔をしていても、とんでもなく遠くてマルチエアポートになっていない空港もあったりします。その多くは大都市の混雑する空港を避け、郊外の暇そうな(失礼)空港を選択するLCCが活用していまして、どれだけ遠いのか、ちょっと調べてみたのでご報告します。

 

 

1. フランクフルト(ドイツ)の場合

 LCCが古くから発達したヨーロッパ。日本からも直行便が飛んでいるような大きな空港は慢性的に混雑していて、無駄な時間が許されないLCCが乗り入れるには適していません。

 そこで、ちょっと離れた空港を選ぼうと思うと、アメリカなんかと違って、そもそも1都市に複数空港があるというのは稀で、ロンドンとかパリとか、大国の首都くらい(軍用空港出身とか、いろんな事情で結果的に複数が存在する例はいくつかありますが)。

 ドイツ有数の都市、ヨーロッパ経済の中心としても知られるフランクフルトには、「フランクフルト・アム・マイン国際空港」があり、JALもANAも乗り入れています(余談ですが、このフランクフルト、「アム・マイン」というのはマイン川の近くという立地からつけられた名前。ドイツにはもうひとつ、東側オーダー川のほとりにもフランクフルトという街がありまして、日本では知られていないけど、旧東ドイツを旅していると列車の行き先などでときどき見かけます)。

 ここは世界的に見ても特に混雑している空港のひとつ。LCCの一部はそれを嫌って、ハーン空港という空港を使っています。代表はライアン・エア。聞いたことがあるという方も多いんじゃないでしょうか。また、ハーン空港にはLCCだけではなく貨物専門航空会社も飛んできていて、日本からの便もあります。

 

 このハーン空港、フランクフルト市外からどのくらい離れているかと言うと、なんと約100km。バスで2時間近くかかります。成田空港が都心から遠いと言われていても、都内から60~70㎞くらいのものですから、いかに離れているか。

 ちなみに、フランクフルトはヘッセン州ですが、ハーンはラインラント=プファルツ州。日本で言えば県境を越えているわけですね。正直これでフランクフルトを名乗るのもいかがなものかと思いますが、そうしないとどこにあるのか伝わらないんだから仕方がない。あれですね、東京ディズニーランドとか東京ドイツ村と同じことですか。

 

 

 

2. ミラノ(イタリア)の場合

 イタリア北部の都市ミラノには、日本からも直行便が飛んでいるマルペンサ空港と、近距離便中心のリナーテ空港があり、マルチエアポートに指定されています。そのふたつで事足りそうな感じもしますが、LCCが好んで使うのがベルガモ空港(正式には、ベルガモ郊外のオーリオ・アル・セーリオに位置するので「ベルガモ・オーリオ・アル・セーリオ空港」)。

 有名な街ではないものの、世界遺産にもなっている古い町並みが残っていて、旅行ガイドブックでも数ページが割かれているところです。音楽に興味のある方なら、ガエターノ・ドニゼッティが生まれた場所、ですかね。

 

 きっと遠いんでしょう、と思いきや、ハーンとは様子が違います。そもそもベルガモ市街地からとても近いのですが、隣接するミラノ中心部までも50㎞ないくらい。マルペンサ空港が意外に離れていて、都心から45㎞程度ありますから、条件そんなに変わりません。

 マルペンサは混んでいますし、電車に乗って町中に出るのも楽ではなかった思い出もあり、郊外の小さい空港からささっと移動できると便利だなぁ、と調べながら思いました。知名度が低いだけで、こういう便利な空港もあるんですね。

 

 

 

3. 宮古島(日本)の場合

 最後に日本の例を。

 日本国内でLCC中心の空港と言うと、そんなに思い浮かびません。アメリカやヨーロッパと比べて狭い国土ですし、変に空港が遠いのであれば列車の方が楽、というくらい新幹線含めた鉄道網が充実していることもあり。

 

 そんな状況で、うまくLCCと付き合っている空港と言えば、沖縄県の下地島空港でしょう。かつてはジャンボジェットの離着陸訓練に使用されていたことでも知られる、長い滑走路を持った飛行場。隣に伊良部島、更にその隣に宮古島が並んでいて、現在は橋で繋がっています。

 長らく旅客便の就航がなかったのですが、2019年に旅客ターミナルビルを完成させて、スカイマークとジェットスター・ジャパンが利用しています(スカイマークをLCCに区分していいのかという問題はさておき。スカイマークの中の方、すみません)。

 

 宮古島には宮古空港があり、こちらはJALとANA(それぞれグループ会社を含む)が就航しています。下地島空港は、宮古空港には乗り入れていない航空会社を誘致し、新たな開発をするというテーマで開業された経緯もあり、行った人から聞いた話では、施設もだいぶ違った趣だそうです。

 下地島空港は、宮古空港からバスで30分ほど遠くに行った場所にあり、若干不便と言えば不便。レンタカーで移動する人の多い沖縄なので、それほど苦もないということでしょうか。

 それと、宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋が、大変景色がきれいな場所として観光名所化しており、そこを通って空港との間を行き来するというのも、ひとつの楽しみ。「航空券が安いかどうか」や「空港から市街地まで近いかどうか」以外の航空会社を選択する要素として、ちょっと珍しい感じもしますが、ご紹介してみました。

 

 

 

 ほかにもブリュッセル(ベルギー)から離れたシャルルロワ空港や、アムステルダム(オランダ)からバスで2時間以上かかるアイントホーフェン空港など、ヨーロッパには「ここどこ?」と言いたく御用達空港がいろいろあります。

 旅行を計画する際、都市名だけ見て気軽に予約すると地上移動に落とし穴があるかもしれません。どこの空港を利用するのか、ちゃんと確かめてから手配するようにしましょう。

 

 

 それではまた。

 

この記事を書いた人:

関本(編集長)

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